『いまやろうと思ったのに』
「さあ、そろそろ寝るよ」
のはなに声をかけた。
のはなが私の顔を見て、こくん、とうなずく。
これがまあ、とにかくかわいい。
階段を上りはじめたのはなの手に何かあることに気づいた。
おもちゃのコインだ。
何枚かもっているようだ。
それを持っているために、階段に手をつけず危なっかしい足取りになってる。
「のはなさん、そのおもちゃはお布団には持っていかないよ。ばいばいしよ。お父さんが片付けるからこっちに頂戴。」
そういって手を差し出した。
のはなはおもちゃを両手でコネコネしながら眺めて、何か考えているようす。
しばらく待つと、のはなが意を決したように『あい』と言って、ひとつ私の手の方に差し出した。
「ありがとう!」
言って頭を撫でながら見ると、コインじゃない。
何かの内蓋だ。
コインより少し小さいし、模様もついていない。
なるほど。
どれを渡そうか考えて、これならいいやと、これだけ渡すことにしたのか。
のはなはまた手の中のコインをカチャカチャ言わせながら何か真剣な顔をしている。
うーむ。
どうしようかなぁ。
実際のところ寝室に持っていくのは構わないんだけど、それを持ったまま階段を上がってほしくはない。
取り上げたりするのは嫌だけど、最悪の場合はしかたない。
それはそれとして、もう一言くらい何か交渉してみたい。
しかしまだのはなは何かを考えている。
階段を上り始めようとしたら何か動くとして、とりあえず待ってみることにしよう。
しばらく無言で待っていると、のはながまたひとつこちらに差し出した。
そして、もうひとつ、もうひとつと、立て続けに4枚。
これで全部だ。
びっくりした。
渡そうか悩んでいたのかなぁ。
それとも渡す順番を考えていたのか。
あるいは、手の中によっつあって、そこからひとつ渡すのにどうつまもうか、どっちの手で渡そうかとか、カチャカチャいわせながら試行錯誤していたのかもしれない。
なんにせよ急かしたり取り上げたりしなくてよかった。
子供には子供のペースがあるのだ。
「のはなさん、ありがとう!これ、片付けるからね。バイバイしてね。」
のはなは満足そうな笑顔でおもちゃにバイバイして、私がおもちゃをしまうのを見届けると、また階段を上り始めた。

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