キッズラインの男性シッター登録停止は女性差別の問題だ
キッズラインという、ベビーシッターと子供の親をつなぐマッチングアプリがあって、底に登録していた男性シッターが子供に対して性的な暴行だの強制わいせつだのを行ったという事件があった。
これを受けて、キッズラインは男性シッターの登録を全面的に停止した。
一応事件のあらましを引用させていただく。
Aさん家族は、2019年10月からキッズラインを利用しており、橋本容疑者の事件発生や逮捕について知ることなく、2020年5月中もXによる保育を複数回利用し続けていた。あることをきっかけに嫌な予感がして子どもに話を聞いたところ、Xからわいせつ行為を受けた内容を打ち明けた。
Aさんは即日、キッズラインの緊急電話にかけるが、つながらなかった。警察に通報し、翌日被害者であるAさんの子どもは病院で検査を受けた 。
その後、キッズライン運営側と連絡が取れ、被害を報告した。 後日警察署で被害届を提出し、受理されている。
被害者の親、Aさんは語る。
「子どもって、性に関する知識がなくても、された行為が恥ずかしいことだって分かるんですよね。恥ずかしいから誰にも言えない。娘には、あなたは何も悪くない、そういう悪いことをする大人が先生でもいるって伝えました。
うちの子は話ができたけど、もっと小さい子だったらお話もできないですよね。少なくとも、2019年11月の事件とうちで2件出ている。氷山の一角かもしれないと思うと怖いです」
わいせつ行為を働いた疑惑をかけられているシッターXは、6月4日の男性シッターの「一斉活動停止」を待たずに、すでにキッズラインの登録をキッズライン側によって抹消されている。
(「【独自】キッズライン、別のシッターによる性被害の証言。突然の男性活動停止の背景に」Business Insider/中野円佳 [ジャーナリスト])
Aさんは最初、そのシッターが来られなくなったという連絡だけをキッズラインから受けたらしい。
そして不思議に思いながらそのことをお嬢さんに伝えたところ、お嬢さんの表情が明るくなった、という。
嫌な予感がして、まさかこんなことをされたのでは、と聞いてみたところ「何度もやめてって言ったのに」と、どんなことをされたのかお嬢さんが話し始めたという。
よそのお嬢さんの話しながら、悲しさと怒りで吐き気しかしない。
キッズラインの一次対応(Aさんへの対応等)は、誠実さを感じず、あまりにもひどい。
私も子供に関わるビジネスを大規模に行う会社の経営幹部の一員だったことがあるけれど、その会社の経営幹部たちなら、こんな対応はあり得ないと即座に言うだろう。
キッズラインの経沢代表は、いまだに個人的なコメントを公式に発表しておらず、子供に関わるビジネスに携わる資格がない人間なのだということを露呈してしまっている。
広報担当者が無能なのかもしれないし、弁護士に止められているのかもしれないけれど、誰に何と言われようが自分の口で被害者とその家族に対する謝罪のコメントを発表するべきだ。
損害賠償請求されるとか、今後捜査がどうなるかわからないとか心配しているのかもしれないけれど、まともな人間ならそんなことを理由に口を閉ざしたりしてはいけない問題であることはわかるはずだ。
しかし、それと別に二次対応(男性シッター登録停止)について
「男性全員が犯罪者なわけじゃない」
「この対応は間違っている」
「男性差別だ」
というようなトーンの言説が蔓延している。
中でも筑波大学教授の原田隆之氏はYahoo!オーサーとして「男性は性犯罪者予備軍と決めつけか キッズラインの男性シッター対応が間違いの理由」という記事を発表。
その中で
今回の措置は,エビデンスも世間の潮流も無視した暴挙であると言わざるを得ません。科学的方法を軽視し,性別だけで判断するという「お手軽な」方法を選んだことがそもそもの間違いなのです。
と断罪している。
世の中の潮流というのは、本文によれば
すべての職業において,性的差別や区別を撤廃していこうという世間の流れがあります。特に,家事や育児などの家庭サービスは,これまで女性の仕事とされ,女性にばかり不当に押し付けられてきたという反省があります。それを改善する動きはまだ遅々として進んでいませんが,それでも男性側の意識も徐々に変わりつつあります。今回の措置は,そうした動きに逆行するように思えます。(中略)
このような目に見えない性役割,もっと言えば性差別のようなものを考えたとき,今回の対策はとても残念に思えてなりません。
ということだ。
しかし、これは残念ながらあまりにも見識がないと言わざるを得ない。
私に言わせれば、女性に対する差別があるからこそ、シッターという職業が女性にしかさせられない仕事になってしまっているのに、あろうことかそれを「男性差別だ」と言っているのだ。
被害者に寄り添うことや、キッズラインを批判することは他の人に任せるとして、私はこの事件(シッターがやったことからキッズラインが男性の登録を禁止したところまで)が女性差別に根差したものであることについて論じたいと思う。
この原田隆之教授は「男性は性犯罪者予備軍と決めつけか キッズラインの男性シッター対応が間違いの理由」本文の中で、昨年性犯罪でつかまった男性が6000人程度であることから、5000万人いる日本人男性の中の0.01%しか性犯罪を犯す者はおらず、99.99%は安全なのに、と言っている。
しかし、そもそも性犯罪の補足率は法務省の調査で5%程度だとされたという話もある。
実際、成人女性が痴漢や強制わいせつ、強制性交といった犯罪の被害にあっても、伊藤詩織さんの例を上げるまでもなく、警察に届けるハードルが非常に高いことは大きな問題になっているし、届け出ても受理されない、警察や周囲からのセカンドレイプに会う、また訴えられた犯人から報復されるリスクがあるといった課題が山積している。
まして、子供に対する性加害というのは、それを被害者として経験した女性の数に比べて、実際に検挙された件数があまりにも少ないことは周知の事実なのだ。
今回のAさんのお嬢さんもそうだけど、大人に口止めされれば、子供たちは親にすらそれを話すことはできないのだ。
私は被害にあったこともないし、女性でもないから実感としては残念ながら分からないけれど、口止めなんかされなくても、子供ながらに「恥ずかしいことだ」と思って人に話せなかったりもするらしい。
それを無視して「去年の性犯罪は6000件でした」などというのはあまりにも見識にかける前提の置き方であると言わざるを得ない。
5%説を信じるのであれば、実際に去年発生した性犯罪は12万件だし、10年にすれば120万件だ。
120万人性犯罪者及び性犯罪者予備軍のうちのたった1%がベビーシッターサービスという犯罪天国に目をつけたとしても、その数は12,000人にも上るのだ。
今回のこの事件、そしてキッズラインの二次対応(男性保育士の登録停止)とそれに対する批判の噴出というのは、全部女性差別に根差した問題だということが本質だ。
日本では、子供と女性の人権、特に彼らに対する犯罪についての取り扱いがあまりにも軽いという問題がある。
痴漢にあっても強姦にあっても、隙があったのじゃないか、逃げられたんじゃないか、抵抗できたんじゃないかなどという馬鹿なことをいう人間が後を絶たない。
子供に対する性犯罪者は、私が小さいころから、いや、きっとそのずっと前から「変質者」と呼ばれていて、犯罪者として扱われてこなかった。
道端に「変質者が出るので気を付けよう 〇〇警察署」みたいな看板が立っていたりするのは、明らかにおかしい。
本来その変質者は性犯罪者であって、そういう被害があったと警察が認識しているのであれば、血眼になって犯人を捜して逮捕して刑務所にぶちこむべきだ。
「変質者が出るので気を付けよう」というのは、「子供に対する性犯罪を犯す人間がいますけど捕まえていません」という宣言なのだ。
ひき逃げだったら「ここでひき逃げ事件が起きました。目撃された方はこちらまで情報提供お願いします 〇〇警察署」という看板が立つ。
つい2~3年前には、ずっと自分の子供を性的に扱い続けていた父親が、その事実ははっきりと認定されながら無罪になるというあまりにもばかげた判決も出た。
成人男性が殴られてけがをすればそうはならない。
この差は何なのか。
「虐待」「痴漢」「変質者」といった言葉を駆使して日本がやってきたのは、性犯罪者である男性を「犯罪者」と呼ばない工夫に他ならない。
つまりこれが、子供(特に女児)や女性が特有に被害者となるケースの多い性犯罪を、日本の司法全体が軽視しているというゆるぎない証拠なのだ。
さらに、今はまだ子育てというのはまだまだ女性がメインで行っているケースが多い。
子供に何かあったら責められるのはお母さん。
男性シッターが何かやらかしたとしてもそれは
「大事な子供を預けるシッターをちゃんと選ばなかった母親が悪い」
「子供をシッターに預けて仕事をしていた(あるいは遊んでいた)母親が悪い」
という声が必ず上がる。
Twitterなどには探すまでもなくそういう声があふれているし、そういう自責の念に駆られる母親も多いはずだし、その母親の周り(特に祖父母世代だ)にもそういうことを直接言う人はいるだろう。
だからこれは、日本においてはそもそも母親がちゃんとやっていれば起こらない問題、という扱いなのだ。
簡単に言えば、冒頭のBusiness Insiderの引用、事件のあらましにも父親は出てこない。
そのことに疑問を持った人はどれくらいいただろうか。
そういうことだ。
原田隆之氏にしろ、その他の「男性差別だ」とキッズラインを批判する人間にしろ、彼らは、性犯罪被害にあって一生苦しむ子供やそのことで自分を責め、周囲からも責められる母親よりも、ベビーシッターになれない男性がいることの方を「差別だ」として取り上げている。
確かに、これは差別の問題だ。
しかし、解消すべきは女性女児に対する根源的な差別であって、彼女らに対する性犯罪が一罰百戒に裁かれるようになっていないために、そういう犯罪が横行しているということが差別なのだ。
そして、性犯罪の被害者が、通常の犯罪の被害者と同じように、一切の批判にさらされないようにならなければならない。
(これについては下のツイートの動画を見てほしい。これは実にばかげたコントだけど、実際に性犯罪被害を警察や周囲に訴える人が経験していることなのだ。)
レイプ被害にあった女性にたいし、「服装に問題があったのではないか」「なぜ助けを求めなかったのか」「飲酒していたから女性にも責任があるのではないか」というような質問がいかに馬鹿げたものであるか。セクシーな服を着ていること、声を上げなかったこと、それらは同意を示すものではありません。 pic.twitter.com/fL3qf0nYDY
— Hina (@MiilkyWay77) November 4, 2017
とにかく、そうして女性女児に対する差別が完全になくなった後に、それでも子供の安全性を考えて男性を排除するのか、それともそれは男性に対して不当に差別的であるとして数字や具体的な対策をベースに参入を認めるのか考えるべきなのだ。
現段階で性犯罪者やその予備軍かもしれない人間を、そうではない男性と十把一絡げにして受け入れろというのはあまりにも安直で愚かな話だし、その選別なりリスクの排除を一企業に負担させるのはあまりにも酷だ。
何しろ、性犯罪者の95%以上は逮捕歴も前科もないのだから、過去にそういう事件を起こした人間を排除するということだけでも不可能だ。
まして予備軍まで排除するとなれば、どのような対応をすればいいのかは想像もつかない。
扱うのは大事な大事な子供たちの心身の安全なのだ。
確率の話じゃない。
事件発生0件以外には意味がないのだ。
だから男性シッター登録を停止したのに、それを「男性差別だ」などというのは順番違いもいいとこだ。
シッターを利用するのは母親、犯罪被害にあうのは子供。
母親がやりたいことをやるのが気に食わない、子供が被害にあうことの意味は分からない。
そういうおそらくは子育てしたこともない男性、子育ての失敗は母親のせいにすればいいと思っている男性が、自分は全く無関係な安全なところから弱いものに向かって石を投げている。
これが、差別というやつだ。
どうしてもこれを「男性差別だ!」と騒ぎたい人は、どうか最寄りの都銀かなんかに行って「窓口に女性しかいないのは男性差別だ!」とでも騒いでいてほしい。
そこにどんな男性がいても、女性も子供も傷つかない。
そういうところから始めたらいい。
今回、キッズラインの代表の経沢香保子氏はTwitterでもfacebookでも、キッズライン社のHPでもコメントを発表していない。
キッズラインが発表したコメントもかなりひどいし、Aさんへの対応も到底誠実だったとは言い難い。
そのことに対して腹を立てている人は非常に多いし、私もその一人だ。
それでも、当面男性の登録を全面停止するという経営判断をしたことだけは、評価していいと思うのだ。
同じマーケティング費用を使って人を集める(マーケティング費用はこの会社のコストの大きな部分をしめるはずだ)なら男女不問がいいに決まっている。
このコストアップは経営の数字だけを見たら、かなり痛いはずだ。
しかし、これはコストの問題ではないのだ。
子供たちにかかるリスクとにかく失くそうというのは、ひととして当然の判断だ。
遅きに失したにせよ、当然取るべき対応をちゃんと取ったということは評価していい。
くだんの筑波大学教授はそのへん(性犯罪者だのの心理学)が専門らしいので、一件でもそういう事件が起こったら自分が被害者の親に何をされるかわからないというリスクを負担した上で、その選別の方法を考案するなり選別担当者になるなりされてもいいのかもしれない。
女性差別が色濃い現代日本とはいえ、父親の育児参加は確実に進んでいる。
女性のビジネスへの進出も進んでいる。
差別を助長したいわけではないけれど、父親達は自分が差別される対象ではないという立場をきちんと使っていくはずだ。
仕事をする女性たちも、家にいて専業主婦をやっていたために男性社会に引け目を感じたりして黙ってしまっていた女性たちとは違うだろう。
だからこれからは、子供に対する性犯罪被害を泣き寝入りしないケースは劇的に増えるだろう。
そういった社会背景をベースに、女性差別子供差別女児差別が一刻も早くなくなることを望む。
【おすすめ】
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ディスカッション
コメント一覧
>とりあえずで人の仕事奪うな!
奪ったのはこの記事の方ではなく犯罪を犯した人、この方に訴えるのはおかしいですね。
男性の性犯罪、特に子供を性の対象とみる男性に言ってまわってください。
急に仕事が無くなり収入が絶たれて、途方に暮れてる
男性シッターの気持ちがわからないんだね。
想像力無さすぎ。
この事件を見て、この対応がやむを得ないと理解でない男性にはシッターやってほしくないですね。
山道です
ブログ主さんの考え方のほうが不見識です。
理由は「そもそも女性解放や男女平等が『女性は保護されなくていい』という女性自身の自立心」から発しているからです。
だから「女性差別はたくさんある。それは性犯罪であり、それを何とかするのが先」というのは「だったら昔のように(または今のイスラム社会のように)女を家に閉じ込めて安全を確保すればよい」という論調にもどってしまう危険があるのです。
つまりこの「男性差別」の問題は「女性差別」ではなく「女性解放と表裏一体をなす問題」なのです。
多分ブログ主はご存知ないでしょうが、西洋女性は女性解放以前まで「財産権もなく、法律で夫に従う義務を強要されていた存在」です。西洋女性には権利もなく「男が守ってやるから、男に従え」と言う世界だったのです。そしてこれは今でもイスラム社会で見られるやり方で、これを父権主義と呼ぶのです。
女性解放は父権主義からの脱却ですが、それはつまり「自分で自分を守ること」を女性達が自らに科した、ということです。それと引き換えに権利を得て、自由に自分の意思で行動する自立を得たのです。
だから、性犯罪だろうなどんな犯罪だろうが、自分で自分を守る、のが当たり前で会って、それは女性差別ではないのです。
だからこそ、この問題は男性差別の問題である、と言うことが女性の自立・女性の権利に直結するわけです。つまり「男性は性犯罪を犯す傾向が強いから予防のために排除できる」なら同様に「女性は性犯罪に遭う可能性が高いから、予防のために排除できる」ことも可能になる、ということです。
これが可能になればせっかく女性解放で得た女性達の権利が侵害されます。だから本来女性達こそ、フェミニストこそが「これは男性差別で大問題だ!」と言わなければならないのですが、日本の女性は(そして男性も)「女性は守られて当たり前」という概念と女性解放が両立するという思い込みがあるので、これを「男性差別」として認識することができないのです。
今回の事件のようなことは防がなければなりません。しかし男性シッターを停止しなくても他にも方法はいくらでもあります。
典型的で原始的なお考えですね。そういう考え方をする方もいることは承知していますが、理論上後戻りが可能な考え方だったとしても、実際上後戻りをすることはあり得ないわけでして。そうなる危険性はあるにせよ、ならないようにしましょうね、としか申し上げようがありません。
どうも勘違いしている人が多いですが、日本において差別されているのは女性であって、男性ではないです。
一部に男性の方が不利益を被ることがあるとしても、それは直ちに男性が差別されていることを意味しません。
また、女性の、ことに自ら選択も抵抗もできない女児の身体のケアなどにおいて男性を排除するのはむしろ当然のことであって、別に差別ではないのに、それがちゃんとできてないせいで犯罪が起こっている現状があります。むしろそれがきちんとなされていないことが、女性への差別であると言えます。
お嬢さんのいる家庭における父親に対する監視というのはもっと厳しくあるべきでしょうね。
日本に男性差別は存在しない。
ここが私とたいきのパパさんとの、認識の大きな相違点なのですね。
ここを議論し始めたら切りがなくなってしまいますね……。
コメントに対する返信ありがとうございました。
将来差別の無い日本で、お子様達が安心して暮らせる未来を切にお祈り申し上げます。
子育て頑張って下さい(^^)
賛同出来ません。
女性のシッターなら安心ですか?
女性のシッターや保育士が、子供を虐待した事件は調べればたくさん出てきますよね?
性的な被害が無ければ問題無いですか?
男性を締め出す前に、リアルタイムで監視出来るカメラの設置などで十分対応を出来たと思いますけどね。
とりあえず男性を排除した上で、そういった取り組みも必要でしょうね
とりあえず? とりあえず差別をしてから対応ですか。素晴らしい考え方です。
いっそのこと、性別で就ける仕事を完全に分けてしまえば楽ですね。
あっ、女の子を授かった家の父親は、当然家庭から追い出さないと危険ですよね。
実の娘に手を出す確率は0ではありませんし。
とりあえずで人の仕事奪うな!
心の底から賛同できません。