お弁当に冷凍食品と既製品と愛情を詰めこんで
落語に『藪入り』という噺がある。
最近とんと寄席に行かないから、三代目の金馬が先代なのか先々代なのかもわからないけど、その三代目金馬の名演であまりにも有名な人情噺。
藪入りというのは、奉公に出た子供やら嫁に出た女性やらが年に二回、実家に帰れる日のことで。
この噺の男の子はまだ10才にも満たない年齢で、奉公に出て三年目の藪入りにして初めて家に帰ってくるという。
『藪入りや、なにも言わずに泣き笑い』
小さな子供を奉公に出して、三年もたってようやく会える親の方は、もう、何にも言えずに泣き笑いするとか。
子供の方もそうだろう。
その前夜。
主人公、つまりその子の父親はもう、楽しみで楽しみで、そわそわそわそわして、まるで眠れない。
『暖かい飯に、あいつの大好きな納豆を買ってやって、海苔を焼いて、卵を炒って、汁粉を食わしてやりたい。刺身にシャモに、鰻の中串をご飯に混ぜて、天麩羅もいいがその場で食べないと旨くないし、寿司にも連れて行きたい。 蓬莱豆にカステラも買ってやろう。』
「うるさいんだから、もう寝なさいよ」『で、今何時だ』
「2時ですよ」
『昨日は今頃夜が明けたよな』
『湯に行ったら近所を連れて歩きたい。赤坂の宮本さんから梅島によって本所から浅草に行って、品川の松本さんに挨拶したい。ついでに品川の海を見せて、羽田の穴守さんにお参りして、川崎の大師さんによって、横浜の野毛、伊勢佐木町の通りを見て、横須賀に行って、江ノ島、鎌倉もいいな。そこまで行ったのなら、静岡、豊橋、名古屋のしゃちほこ見せて、伊勢の大神宮にお参りしたい。そこから四国の金比羅さん、京大阪回ったら喜ぶだろうな。』
『明日一日で。』
で、またおっかあに時間を聞いて、早く寝ろと怒られる。
親心ってやつ。
実に見事だ。
明日はたいきは遠足だ。
お弁当を作ってやらなきゃいけない。
色々買ってきて詰めるにせよ、卵焼きくらいは焼いてやろうかなぁと思いながら、奥さんに
「明日のお弁当どうする?」
って聞いたら
『卵焼きくらいは焼こうかなぁと思ってるんだけど』
考えることは同じだ。
気の合う夫婦で本当によかった。
その他にお弁当にいれる食材は私がスーパーで買ってくることになった。
メイン、というか、目玉、というのか。
ご飯のところを海苔かなんかでデコレーションするのは、奥さんにアイデアがあるらしいしのでお任せ。
どうせ不器用な私が何かしたところで、象のつもりがブタにしか見えない、なんてのがせきのやまだ。
こっちはスーパーでやれることをやる。
もちろんどんなものを入れようか、奥さんとちゃんと相談してから行った。
お弁当だから、少し味の濃いもので、彩りも考えて緑のものや赤いものも入れるとして。
赤いものは、これはもう食べようが食べまいがミニトマトの鮮やかさに敵うものはないからミニトマト。
緑のは冷蔵庫にレタスがあるけど、やっぱりキュウリじゃないと食べないかなぁ。
キュウリも食べやすいサイズにスライスするにせよ、少しストライプになるように皮を切ってやったら喜ぶかしら。
メインはやっぱり、大好きな唐揚げだろう。
お総菜のやつでいい?と奥さんに聞いたら、お総菜のは当日食べなきゃだめだから冷凍のにしてと教わって。
冷凍のやつもなんかガッツリ大きいやつやらタレがついてるやつやら色々あるけど、まだ箸はうまく使えないからあんまり手がベタベタになると先生が大変だろうから、なるべく普通の、食べやすいサイズのにして。
ちくわも好きだから、奥さんも入れてやりたいって言ってたちくわも買って。
隣にかまぼこ。うーん。かまぼこも好きだけど練り物でかぶっちゃうなぁ。
あー。ポテトサラダかぁ。
マヨネーズ系は絶対だけど、マカロニサラダもあるなぁ。最近マカロニはよく食べてたからそっちにするか。
うーん。使うかわからないけど桜デンブとかシャケフレークとかもご飯に色をつけるにはいいなぁ。
そうだ。
なんか唐揚げが気に入らなかった時のために大好きなベーコンも炒めて入れてやったら喜ぶんじゃないか。
漬け物かぁ。昔からお弁当には梅干しやら漬け物やらを入れるのは、あれは落語の確か唐茄子屋政談で「すえない(腐らない)ように」入れるんだって言ってたけどどうなんだろう。
梅干しは食べないだろうし、たくあん、ぬかづけなんかもまだ食べたこと無いか。
うーむ。
なにかこう、もうひとつふたつ、何かこれだっていうのがある気がするからもう一度冷凍食品の棚を見て、そうだ、缶詰のところにも何か素敵なものがないかしら。。。
そんなこんなで広いスーパーの中を二、三周して、たいきのたった一食のお弁当のために、なんだかんだで私の二食分くらいの食材を買った。
お弁当は手作りで、冷凍食品禁止!なんて幼稚園があったりするとかしないとかいう話を目にしたことがあるけど。
まあ、全部手作り!みたいなことは、それはそれで立派なものだと思う。
でもね、子供が食べるお弁当。
何を入れようか、どんなお弁当にしようか、食べてくれるか、十分足りるか。
考えることは一杯。
この、明日つくって持たせるお弁当にだって、奥さんと相談しあって詰め込んだ愛情がたっぷり入っているの。
食べるところを見られないのが残念だけど。
iPhoneじゃないけど、お弁当のふたを開けたときに『うわぁ』って喜んでくれて、美味しく食べてくれるといいなぁ。
そういえば、ちょうど一年前の遠足でもおんなじような気持ちだった。
まだまだ、毎回ドキドキする。

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