奇蹟の出産立ち会い体験記

出産立会い

予定日は8月2日。

しかしまあ、実際いつになるかはわからない。

私は東京で仕事。

奥さんは熊本に里帰り。

どうやって出産に立ち会うのかというのは大きな問題だった。

どんなに考えても結局

『産まれそうになったら連絡もらって飛行機にのる』

以外の選択肢がない。

それで、間に合えばよし。

奥さんは、今回の立ち会いは諦めている節もあった。


7月25日を過ぎたころから、なんとなくお腹が張ってますとか、前駆陣痛みたいなのがありましたとか。

連絡があっては、結局収まるの繰り返し。

なかなか落ち着かない日々を過ごしていた。

いよいよ7月28日の日曜日、予定日は週末の8月2日金曜日というところまできて、とにかくいつ呼ばれてもいいようにトランクに荷造りもした。


29日の朝はとにかく暑かった。

夜の間、陣痛が一時間おきくらいにはあったらしいけど、朝になったら落ち着いたとの連絡あり。

入院の準備はしたらしい。

しかし、このくそ暑いなか、仕事の荷物とトランクをがらがら引きずってなどいられない。

なんか数日そわそわしていたとはいえ、よく考えればまだ予定日まで4日もあるのだ。

荷物をおいて職場に行った。

昼頃、奥さんとLINEでもし飛行機当日取るならいくらになるみたいな会話はした。

なんだか会員だかなんだかの特典だかで、奥さんが買うと大分安いのだ。


17時過ぎ、LINEが入った。

18:55は、羽田-熊本便の最終。

何度時計を見て計算しても、荷物を取りに帰る時間はない。

『このまますすむとだよる』

の『る』は『?』のミスタイプ。

このまま進まない可能性もある。

しかし、考えてる余裕はない。

今週の仕事を熊本でやる段取りは全部終わっている。

陣痛で苦しいはずなのに、私の着替えのこととかどうでもいいから。

と思って送ったのが

『大丈夫、ありがと』

後で聞いたら

「別に、いたくないときはそんなの全然関係ないし平気だから」

とのこと。

そういうものらしい。

二度と使えなさそうな知識。


とにかく飛ぶと決めた。

多分、産まれるだろう。

勘としか言いようがないけどそう思った。

電車に飛び乗って羽田に向かう。

いよいよか。

改めて不安が襲ってくる。


このときのために家族でディズニーランドもディズニーシーもいった。

三人で温泉旅行もした。

出産は、綺麗事じゃなく、普通に母体にも命の危険が伴う。

妊娠発覚したとき

『何かあったときは母体優先でお願いします』

といった私に、奥さんは笑いながら言った。

『そんなわけにもいかないでしょ。もう、この子はお腹のなかにいるんだから。』

人生で最高に情けない瞬間だった。

私は、まだその子の親じゃなかった。

お母さんだけが、お母さんだった。

なんかあったらあとはよろしく。

私は思い残すことがないように生きる。

奥さんがそういって、みんなでディズニーも温泉も行ったのだ。

何かあったらどう判断するのかは決まっている。

その判断は、奥さんの両親にはできまい。

それができるのは私しかいない。

だから立ち会うのだ。

それでも、奥さんに死なれるのはもちろん絶対に嫌だ。

とにかく母子ともに健康で。

それを祈るしかない。


そんなことを考えたりツイートしたりしていたら、なれない道順で痛恨のミス。

電車を乗り間違えた。

空港に18:30にはつくはずが、つかないので気づいた。

調べると、いまから最短で羽田に向かって、到着予定は18:52。

フライトは18:55。

絶望的だ。

なんとかなることを無闇に信じてとりあえず乗り換え直しつつ、航空会社に電話。

一向に繋がらず、自動音声を聞き続けること10分。

繋がったのは18:40過ぎ。

状況を手短に説明する。

なんと!

フライトが遅延して19:05になったらしい。

とはいえ、18:50までに保安検査場を通過しないとだめとのこと。

しかし羽田到着予定は18:52。

どう考えても無理。

最悪、18:55までに保安検査場にくればなんとかなるかもしれないが、搭乗できるか約束はできないといわれた。


羽田空港は広い。

改札から保安検査場まで、この運動不足が服を着て歩いているような体型の私が3分でいけるか。

結論から言えば、本当にギリギリだったけどなんとか間に合った。

トランクがあったら無理だった。

荷物がなくて助かったのだ。

奇蹟としか言いようがない。

まあ、最悪乗れなかった場合は明日の朝イチでいけいいか、という部分はたしかにある

しかし、大した意味はないかもしれないけれど、行けるものなら行ってしまいたい気持ちは強かった。

とにかく飛行機には乗った。

眼下に東京横浜の夜景が広がった。

空港に義父が迎えに来てくれて、合流。

21時過ぎに義実家につくと、奥さんとたいきが出迎えてくれた。

元気そうだ。

まだ10~15分おきと、陣痛は安定しないらしい。

このまま収まってしまうも知れない。

あまりテンションは高くない。

ちょっと拍子抜けする。

とりあえず義母さんが用意してくれたカレーをいただいた。

うまい。


たいきは

『ばーばと寝る』

といってばーばの寝室に消えていった。

奥さんが驚いているので、聞くと、ばーばとはまだ寝たことがないらしい。

いつもお母さん。

まして、今までずっと寝かしつけをしてきたお父さんもいるのにばーばと寝るなんて不思議でしかないとのこと。

たいきなりに何か雰囲気を感じているのか。

それとももっと超越的な第六感みたいなやつか。

前にあったみたいに、一度はそういっても戻ってくるやつかなと思って待っていたが、22:30になっても出てこない。

本当にばーばの布団で寝てしまったらしい。

不思議なこともあるものだ。

大人も順繰りに入浴して、それぞれ寝室へ。

とりあえず、寝ようということだ。


23:15頃、奥さんが病院に電話すると言い出した。

まだ陣痛は12分おきくらい。

このまま収まる可能性もある。

しかし、このまま進むと、病院から連絡しろと言われている、5分おきの陣痛になるのが3時とかになるかもしれない。

そんな時間になると移動も何も大変だから、いけるなら今のうちに病院にいきたいらしい。

今の状況と前回のお産の様子などをかなり丁寧にヒアリングされ、日付が変わってから来て下さい、ということになった。

あとで聞いたのだけど、日付が変わる前だと入院費が1日分増えてしまうということで病院の方で気をつかって、そう案内されたとのこと。

親切。

とにかく徹夜になる。

長期戦の覚悟を決めて、いざ出陣。


義父の運転で0時過ぎに病院につくと、まずは内診。

当然私は立ち会えない。

子宮口はまだ4センチしかあいていない。

これが数時間かけて10センチくらいになるのだ。

とりあえず様子見ということでベッドでモニタリング。

前回は病院についた瞬間から

『いつ生まれるのか、いまいきなり生まれるんじゃないか』

とビクビクしていたけれど、今はそんなことはないことも知っているので写真を撮る余裕もある。

どうせ生まれるのは早くたって明け方とかだ。

おたおたしたって始まらないのだ。

奥さんも余裕の表情で

「今回は余裕あるね」

などとわたしを冷やかした。


0時40分頃、分娩室に移動。

前回は分娩室で数時間かかったことなどを思い出しながら辺りを見回すと、相変わらずテニスボールがおいてあったり。

よし。

ここからだ。

奥さん、がんばれ。

私も及ばずながらさすったりおしりを押したり、全力で頑張る、という闘志がわいてくる。


内診ということで部屋を追い出される。

漏れ聞こえる話から、子宮口がもう8センチくらいになっていることがわかる。

ん?ちょっとはやい?

まあ、なんでもいい。

とにかくおしりを押すのだ。

私はそれだけ考えればいい。

内診が終わって病室に入る。

前回とは違う部屋だねなどと話をする。

まだまだ余裕。


と、スタッフの方が足を広げる準備を始めた。

あれよあれよという間に例の格好になる。

なんか陣痛が急に辛くなったらしく、手を握ってほしそうにしているので強く握る。

この態勢だとやれることがない。

何分かすると助産師さんたちが何人かきて、陣痛のお腹を押したり、なにやら奥さんの股ぐらで何かし始めた。

前回は放置の時間が長かったけど、今回は手厚いな、などと思う。

お陰でやることがない。

時々陣痛が来るとみんな仕事をする。

収まると、それぞれの定位置でボーッとする。


そんなことを数分おきに何回か繰り返して20分くらいたったろうか。

元気な女の子が産まれた。

1:09

え?

産まれた?

私もびっくりしたが、奥さんもびっくりしていた。

明け方とか…

ん?

え?

もう?


早すぎたので出血するかもとかなんとかで後の処置に時間がかかるとかで、部屋を追い出され、30分ほども待っただろうか。

あっという間に追い出されたので、まだ奥さんに

「おつかれさま」

「ありがとう」

も言えてない。

などと考えつつも、その間ずっと、部屋のドアにニヤニヤしながら張り付いて中から聞こえる元気な泣き声に耳を傾けていた私は、明らかに変な人だっただろう。

とにかく人生で二回もこの奇蹟に立ち会えたことは無上の幸福。

迷いなく飛んでよかった。

生まれると信じて、間に合うと信じて頑張って本当によかった。

【関連リンク】

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