ゆうやけこやけのあかとんぼ
例によって帰り道。
たいきを抱いて歩いていると
「おとーしゃん、あっちみて!」
といってたいきが遠くの空を指差した。
見ると、うっすら夕焼けの色。
「おしょら、ぴんくだねぇ!」
「ほんとだ。ピンク色だね。あれは夕焼けだよ。」
「ゆーやけ」
「そう、夕焼け。」
それから、赤とんぼの歌を歌ってやった。
♪夕焼けこやけの、あかとんぼ
負われて見たのはいつの日か
三番に差し掛かって、ちょっと、歌うのをためらった。
三番の歌詞はこういうのだ。
♪十五で姐やは嫁に行き
お里の便りも絶え果てた
この歌は幼くして母親と離れて祖父母に育てられた三木露風の実体験の歌と言われている。
姐や、は里に帰ったお母さんが送ってくれた女中さん。
その姐やさんも15でお嫁に行ってしまって、お母さんの消息を聞くこともできなくなってしまった、というのがこの歌詞の意味だ(諸説あり)。
母親との縁が薄かった切なさの歌。
まあ、そんなことはたいきにはわからない。
ひとりで少しだけ露風の郷愁に今のたいきを重ねつつ歌った。
たいきはセンチメンタルなメロディに何かを感じたのか、ぎゅっと私の首に抱きついて聞いていた。
風呂にはいって、お母さんとのLINE通話も終わって、寝かしつけ。
ひとしきりベッドで遊んだたいきに、そろそろ横になってと言うと、歌をせがまれた。
「なんの歌を歌おうか」
「たいちゃん、ゆーやけのうた、すき」
気に入ったらしい。
季節は少し早いけど。
1歳の秋頃に寝かしつけで時々歌っていたのを覚えているのかもしれない。
二番まで歌うと、
「おとーしゃん、きょーりゅー」
恐竜の歌がいいのかな?
歌うのをやめてたいきの顔を見ると、たいきがもう一度口を開いた。
「おとーしゃん、おうた、じょーじゅ」
聞き間違いだったらしい。
寝かしつけや保育園の帰り道、子守唄の類いや色々な歌を何千回歌ったかわからないけど、たいきに歌をほめられたのは初めて。
なんか照れ臭い。
たいきは言ったきり黙って私の顔を見ている。
ありがとうと言って、また歌い始めた。
たいきは目をつぶって聞いていて、何度か歌ううちに寝息をたて始めた。
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