ずっといっしょ

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目を開くと、真っ暗闇だった。

何も見えない。

(…あの子はどこかしら…)

少しはなれたところに、子供の姿が見えた。

(…抱っこしてあげなきゃ…)

静かに寝ているようにも見えるし、

動いたようにも見える。

まるで空を仰ぐように手を広げ、

抱っこをせがんでいるようにも見える。

もう3歳になった娘が、

一瞬、生まれたばかりの乳児のように見えた。


『おかーしゃん!だっこ!』

呼ぶ声が聞こえた。

(…はいはい、抱っこしてあげようね…)

どうしたことか、思うように体が動かない。

早く行ってやらないとまた泣き出すに違いない。

急ぎたいのに、体が重い。

『おかーしゃん!だっこ!』

今行くわよ、と口を動かしたが、声が出たかどうか。

『おかーしゃん!いっしょに!』

まるでおもりが付いたように動かない体を動かして、

少しずつ近づいていく。

(…あの子がおなかの中にいたときだって、もう少し動けたのだけど…)

ふとそんなことを思い出した。


妊娠がわかったとき、

ああ、お母さんになったんだなあと思った。

お腹をなでながらすごした日々。

だんだん大きくなっていくお腹を見て、

夫と二人、

どんな未来になるかを語り合った。

生まれてくる子供の服を買い、おむつを買い、

おもちゃを買い、出産予定日を指折り数えた。

生まれた子供をはじめて胸に抱いて、一生掛けてこの子を守ろうと誓い合ったのはまだ昨日のことのようだ。


初めての授乳、初めての離乳食。

初めてのハイハイ、初めての立っち。

おっかなびっくりのつたい歩き。

そして一人で歩き出した日のこと。

初めて「ママ」と呼ばれた日。

初めて「イヤ」といわれたのは、

いつだっただろうか。

泣き顔すら愛くるしく、

笑顔は天使そのものだった。

どんどん言葉を覚え、動き回り。

めまぐるしく成長していく姿に、

一抹の寂しさを感じた日もあった。

家事の最中に抱っこをせがまれて、

泣かれて困ったこともあった。


(…しかたないわね…)

ようやく子供の元にたどり着き、抱きしめた。

満面の笑顔で抱きついてくる。

『おかーしゃん!いっしょに!』

(…一緒にね。ずっと抱っこしていてあげるからね…)

さみしくないわよ。

やさしく抱きしめ、微笑みかけた。


『おいで』

どこか遠くのほうから、呼ばれた気がした。

とても懐かしい声だった。

視界が急に明るくなりはじめた。

『おかーしゃん!いっしょに!』

おいでという声がこの子にも聞こえたらしい。

(…ごめんなさいね、あなた、でもりこちゃんを一人で行かせられないから、私も行くわね…)

悲しむことはもちろんわかってる。

でも、この子を一人で行かせるなんて

できるわけがない。

子供が生まれてから、お互いに、

子供が一番、相手が二番。

(…しかたないの。ゆるしてね…)


腕の中で、空を見上げる顔が見える。

同じ空を見ようと顔を動かそうにも、

力が入らない。

だんだん視界が明るくなる。

光があふれて目を開けていられなくなった。

目を閉じると、急に体が軽くなった気がした。

抱いた娘の温もりだけを感じる。

『おかーしゃん!』

世界で一番、愛しい声が耳に響く。

堅いアスファルトの上。

最期の力で子供を抱きしめた。

 

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