子供をしかるときに一番気をつけなきゃいけないこと~旅先で遭遇した冤罪事件

お父さんであること, 子育てを考える

ホテルの子供向けのプレイルームでたいきと遊んでいたときのことだ。

4~5才くらいの男の子と女の子がすぐ近くで遊び始めた。

切り株みたいな形の椅子を、等間隔に3つ並べて飛び石みたいにして、その上をぴょんぴょん渡る遊びだ。

椅子をセットして遊び始めたのは女の子。

活発な子だなぁと見ていたら、男の子もすぐに真似して一緒にやりはじめた。

彼らは兄弟ではないらしく、それぞれのお母さんが少し離れたところに座って、見るともなく見ながらおしゃべりをしていた。

男の子はジュンくん(仮)とミーちゃん(仮)というらしい。

元気な二人に驚いたたいきは私の膝の上に座って大人しく彼らが遊ぶのを見ていた。

やってみたいのかなと思うけど、まだたいきにはそのいすの上に乗るのも少しハードルが高いし、椅子から椅子へ飛び移るのは難しそうだ。


やっているうちに、踏みきる方の椅子は後ろに、着地する方の椅子は前にずれていって、だんだん間隔が広くなってきた。

こりゃ危ないぞ。

いつか転ぶかなぁ。

しかしまあ、椅子の高させいぜい30センチくらい。

椅子も柔らかいし床も固くはない。

怪我はしないだろうからまあいいかと思って見ていると、果たしてその時はたいして時間もかからずに来た。

みーちゃんがゴールの椅子(3つ目だ)の上にいるときに、じゅんくんがひとつ目からふたつ目に飛び移るのに失敗して床に盛大に転んだ。

と、なぜかそれを見たみーちゃんが驚いたのかなんなのか、ぴょんとひとつ前の椅子に戻り、もう一度ゴールの椅子に飛び移ろうとして、同じように落ちて転んだ。

二人とも泣きはしなかったけれど、みーちゃんが転んだゴールの椅子の方が少し高さがあったからなのか、みーちゃんは悲鳴のような声をあげた。

するとじゅんくんのお母さんが飛んできて、じゅんくんの両肩をつかんで自分の方を向かせて

「じゅんくん、何したの!」

と言った。

はっきりと非難する声だった。


私はこの遊びを真横から見ていたのだけど、あちらのお母さん達は縦から見ていたので、どうもじゅんくんがみーちゃんにぶつかって落としたように見えたらしかった。

いや、落ちたタイミングは違ったから、実際のところはお母さんはその瞬間は見ていなかったのかもしれない。

じゅんくんは椅子から落ちてビックリしてるところにみーちゃんもいきなり落ちたのを見てさらにビックリしていたが、お母さんが飛んできていきなり怒られて、固まってしまった。

まあ、このくらいの年だと自分が悪いのかどうかもわからないから、お母さんに怒られてるってことは何かわからないけど自分が悪いのだろう、と思って、でも何を謝らなきゃいけないかはさっぱりわからなくて困ったのかもしれない。

「じゅんくんが後ろからぶつかってみーちゃんが落ちちゃったんでしょう?何て言うの?」

じゅんくんは何も言わない。

お母さんは決して怒鳴ったりしてるわけではない。

でもはっきりと怒っていることはわかる。

そんな声と表情だった。

じゅんくんは、ぶつかってない、と言いたいのかもしれない。

でもとにかくお母さんの剣幕に押されて、まだ何も言えない。

「ごめんねって言えないならもう遊べないよ。」

そう言われたじゅんくんはプレイルームから走り出ていってしまった。


みーちゃんもお母さんに慰められながらすぐにプレイルームを出ていった。

自分で落ちたと言うかなと思ったけど、それは言わないで行ってしまった。

ほどなくじゅんくんがプレイルームの入り口に戻ってきた。

奥に座っていたお母さんが声をかける。

「じゅんくん、ちゃんとごめんねがいえないからみーちゃんは行っちゃったよ。もうみーちゃんとは遊べないよ。」

じゅんくんはどうしていいかわからないという悲しそうな顔をしていたけど、さらに何かお母さんに責めるようなことを言われると、お母さんのところに走っていってお母さんを叩き始めた。

なかなか気の強い子だ。

「なんでお母さんを叩くの。やめなさい。」

お母さんはじゅんくんの肩を両手でつかんで、顔を向き合わせてまたさっきと同じことを言い始めた。

じゅんくんは目を見開いてその声を聞いていた。


私はここまで、ずっとたいきを膝に抱いたまま座って、ことの成り行きを黙って見ていた。

口を挟むほどのことじゃない。

多分じゅんくんは「僕は悪くない」とかなんとか言うだろう。

その時、お母さんから何か聞かれたら答えよう。

確かにこんなことだった、と。

聞かれなくても、そこで加勢してあげてもいい。

いずれにせよ、いきなり知らないおっさんが口を出すのは差し出がましいだろう。


お母さんはまくし立ててるわけじゃない。

しかしじゅんくんは何も答えない。

お母さんとしては謝るまで何か言わざるを得ないので同じようなことを繰り返す。

感情的にはならず、理路整然と繰り返し、根気よく話をする。

じゅんくんが何か反論すればちゃんと聞いてくれるんだろうな、という安心感もある。

叱り方のお手本にしたいような立派な叱り方だと思った。

じゅんくんは相変わらずお母さんの顔を見つめて、表情の無い顔で少し何か言いたげに口を開いて、でも何も言えずに聞いている。

なかなか言葉がでないことに、私も少しもどかしく思い始めた。

お母さんも、そろそろ何かじゅんくんが言うだろうと思ったらしく、言葉を切ってじゅんくんの顔を見つめた。

どうするのかな。

自分で何か説明するんだろうか。

それとももう謝っちゃうんだろうか。

結論から言うと、どちらも違った。

じゅんくんは、お母さんに向き合って見開いた目をさらに見開いた。

口も開いたようだ。

何か言うかなと思ったその刹那、その目が潤み始めた。

見る間に、その目から涙が一粒こぼれ落ちた。


はっとした。

これはいけなかった。

私だってそこにいて、見ていたのだ。

そしてお母さんはその私が何も言わないこともあって、自分が正しいと思い込んだ。

じゅんくんだって、大人の私が何も言ってくれないから、自分がいっても無駄だと感じてしまっていたかもしれない。

何より、じゅんくんは子供だ。

たいきより大きいから、ちゃんと話せるのかななんて思ってしまっていたけど、そうじゃなかった。

そもそもそんなことは関係なくて、私は最初からすぐに話をしてあげるべきだったのだ。

実際のところ私は、お母さんが怒っていたから、そこに口を挟むのを面倒がっただけだったんだと思う。

そして、その反論する役割をじゅんくんに押し付けてしまった。

みーちゃんだって、じゅんくんを悪者にしようとは思わなかっただろうけど、自分が落ちたと言わずにいなくなったのは同じようなことだろう。

いずれにせよ大人の私にできないことは、お母さんにしかられている子供の立場のじゅんくんにはなお難しかったはずだ。


思っている間にじゅんくんは泣きながら部屋を出ていってしまった。

たいきは雰囲気にいたたまれなくなって「帰る」と言って抱きついてきたけど、ここで帰るわけにはいかない。

お母さんに声をかけてこうこう、こういう感じでしたよという話をした。

そこにたまたまみーちゃんのお母さんも帰ってきて、そうそう、と同調してくれた。

近くで見ていた私が口を開いたので安心したのかもしれない。

じゅんくんのお母さんもちゃんとわかってくれたようだった。

そのあと、お母さんがじゅんくんとどんな話をしたのかはわからないけれど、しっかりした印象の方だったからちゃんとフォローしてくれたんじゃないかと思う。


食事のときに二人を見かけた。

じゅんくんはすっかりご機嫌でお父さんとお母さんに何か楽しそうに話しかけていた。

ビュッフェスタイルの食事だったので、余計なことかなとは思ったけど、たまたま二人が近くにいたときに声をかけて、二人に謝罪した。

もっと早くお話しすればよかったのに、じゅんくんはなんにも悪くなかったのに、と。

じゅんくんはお母さんが私に何か答えてくれている間にあっちに走っていってしまった。


親だって勘違いはする。

私だってするだろう。

たいきが、今日のじゅんくんと同じ顔で私の顔を見たときに、私はこのことを思い出せるだろうか。

心当たりの無いことで怒られて。

だけど言語能力が未熟で言葉が出なくて。

あるいは自分が正しいかなんて自信は持てなくて、だけど親は怒っていて、叱られて。

むやみに悔しくて悲しくて。

そんなときにきっと子供はみんなあんな顔をするのだ。

ひょっとしたらそれは、やっちゃったことの意味をまだ知らないときかもしれない。

今日みたいに、やってないことで怒られているときかもしれない。

いずれにせよ、悪いという自覚の無いことでしかられるのも、何もしてないのにしかられるのも理不尽だ。

誰かが怒っているときに、それを止めるのは面倒であるにせよ、一番弱い子供にその理不尽を押し付けようとする、なんてこともあってはならない。

私が怒っているとき奥さんは冷静に止めてくれるだろうか。

奥さんが怒っているとき、私はちゃんとそこに向き合えるだろうか。

じゅんくんが見せてくれたあの顔を、忘れないでおきたい。

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