ジュースを買うのをがまんした
保育園にお迎えに行くと、たいきの他に男の子が二人。
同い年のりっくんと、ふたつ上のはるくん。
大体この三人は元気一杯走り回るタイプなんだけど、今日に限って大人しく三人で紙にシールをはる遊びをしてる。
「この三人だと大騒動になりそうなのに、なんか大人しいんですね。」
「いえ、三人の顔をよく見てください。さっきまで大はしゃぎすぎて怒られたりしてたくらいで…」
なるほど、三人とも髪の毛ぺったり、顔にはぬぐいきれない汗がのこっている。
そんな話を先生としていたら、保育園のドアフォンがピンポーンと鳴った。
りっくんが「おかーしゃん!」と叫ぶ。
しかし、現れたのははるくんのお母さん。
りっくんはあからさまに落胆の表情。
やれやれ。
りっくんのお母さんはあと10分以内にはお迎えに来ることはわかっている。
なにしろあと10分で閉園なのだ。
それまで待つことにするか。
どうやらはるくんのお母さんも同じ気持ちらしく、帰り支度を始めようとしない。
「りっくん、もうすぐりっくんのお母さんも迎えに来るよ。いいなぁ!」
「うん」
「りっくんのお母さんも来たら、一緒に帰ろうか。」
たいきが
「いっしょにかえろう!」
とぴょんぴょんはねると、りっくんも笑顔になって
「いっしょにかえろう!」
と跳び跳ね始めた。
ほどなくりっくんのお母さんも来て、三人ともおおはしゃぎで退園。
門を出るとすごい勢いで走り出した。
たいきひとりのときや、だれかと二人のときはどんな動きをするか何となくわかっているので道を歩いかせていてもそんなに怖くはない。
しかし三人一緒は珍しい。
はしゃぎぶりもいつもとは大分違う。
車が来たから立ち止まって、という声がなかなか届かない。
いつもよりたいきとの距離をつめて伴走する。
最近あまり手をつながなくなったりっくんのお母さんは「りっくん、走らないよ!」といい続けているが、りっくんもお構いなしで走る。
お兄さんのはるくんがときどき二人の手を引いて止めようとしてくれるけれど、ふりはらってあらぬ方向に走り出したりするので余計怖かったりするのがなかなかもどかしい。
二人と別れてスーパーへ。
最近はカートに乗るのがお気に入り。
大体すいているときはこの格好で移動する。
「あ、じゅーしゅがあるよ」
そう。
そこにジュースがあるのは知っている。
たいきももちろん知っているけど、あたかもいま気づいたような口調が可笑しい。
「あんぱんまんのじゅーしゅがあるよ」
「たいちゃんのジュースはちゃんとおうちにたくさんあるから買わないよ。」
「や!じゅーしゅかうの!」
とりあえずわめかれても面倒なので近くにつれていく。
「見るだけ。今日は買わないよ」
たいきがジュースに手を伸ばす。
「買わないからさわらないで。」
「や」
たいきが三本セットの紙パックのジュースをつかんだ。
「たいちゃんのはちゃんとおうちにあるから買わない」
「じゅーしゅかうの!」
たいきがジュースを抱え込んだ。
「おうちのジュースがなくなったらちゃんと買ってあげるよ。」
しばらくその格好で考えていたけれど、ちゃんと思い直して棚にジュースを戻した。
「ありがとう。今度また買ってあげるからね」
そういって頭をなでる。
「じゅーしゅ、きょうはかわないよ」
「そうだね、今日はかわないね」
グズるでも泣くでもなく、ちゃんと理解できたようだ。
ちゃんとお母さんにも報告して、ほめてあげてもらおう。
*文中のお友だちの名前はプライバシーに配慮して変えてあります
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