お風呂出たあとの最後の試練
お風呂はいるまではご機嫌だったものの、眠さが最高潮に達したたいきはご機嫌最悪。
服を着ない。
一度は無理に着せたけど脱いだ。
どうしてもお母さんに着せてほしいんだろう。といって、お母さんはまだまだ帰ってこない。
ずーっと
「えー!あー!あーーーっ!」
と泣き叫び続ける。
こういうときはとにかく共感するしかない。
「そっか、服、やだったね。」
「ごめんね。」
「おかあさんがいいね。」
『ままーーー!』
ようやく言葉が出た。
いつもは『おかあしゃん』なのに『まま』になってる。よほど眠いのだ。
「おかあさんがいいね。」
「おかあさん、もうすぐ帰ってくるよ」
『ままーー!ままーーー!』
『あ゛ーーーーーー!!!!』
よし、会話ができた。
とにかくまずは服を着させることだ。
「そうだ。お外におかあさん、お迎えにいこうか」
「お迎えにいったらお母さんに会えるよ」
「お外にいこう」
『うん』
『おしょと、いく、おかあしゃん』
よし、おかあさんになった。
ピタリと泣き止んだ。
「お迎えにいくなら、服着よう」
『くゆま、きりゅ』
さっき着せた服とは違うパジャマを指定された。
「よし、車の服、着ようね」
嬉しそうにうなずく。
幸い自動車がらの寝巻きは洗濯済み。
おとなしく着てくれた。
そのままたいきは玄関に向かう。
そりゃそうだ。
おむかえにいくために服を着たのだ。
たいきとの約束は破れない。
もちろん、奥さんが帰ってくるまで外で待つわけじゃない。
このまま外で寝かしつけるしかない。
考えてる間に、たいきは自分で靴を履いた。
表へ出ると曇り空。
星も月もないけど、風は気持ちいい。
たいきはしばらく歩いて、何かの拍子に転んだ。
「大丈夫?どこか痛いとこある?」
『てって』
チャンスだ。
「うわー、痛かったね。」
「よしよし、だっこしてあげようか?」
『だっこ』
ようやく抱っこできたけど、まだもう一歩。
からだが離れてて寝る体制にならない。
ベッタリしてもらわなきゃ。
「ねないこ、だれだ~?」
いつも読んでる絵本の台詞。
「たいき、もう夜だからね、ちゃんとお父さんにつかまっててね。おばけになってとんでいけー!って、お化けが来るかもしれない。」
たいきの表情が固くなる。
あたりをきょろきょろしてる。
お化けを探してるみたい。
いかん。ちょっと怖すぎるかな?
「たいきは大丈夫だよ。」
「お父さんがちゃんとだっこしてるからね。」
たいきはすこし安心したような顔をして『うん』とひとつうなずくと、抱きついてきた。
よーし。
あとは歌うたうだけ。
「なにか歌を歌ってあげようかな」
「とりでいいかい?」
返事はないけどとりあえず歌い始める。
おかあさんといっしょの、とり。
♪とべないとりは、走れるとり
♪大地をかける勇ましいダチョウ…
おとなしく聞いてる。
よかった。
一応お迎えにいってる体だから、すこーしずつ前には歩きながら歌う。
2回歌って様子をうかがうと、体勢を変えずに『もういっかい』といわれた。
まだ起きてたか。
そのままあと5回歌うと、寝息らしきものが聞こえてきた。
顔は見えないから、そっと靴を脱がせてみると、なにも言わない。
どうやら眠ったらしい。
やれやれ。
部屋に戻ってベッドに置く。
いや、確かにたいきはそのとき目を開いた。
目が合った。
起きたらまた外に出る覚悟はできている。
と、その気持ちに安心したのか、たいきは目を閉じてそのまま寝息をたて始めた。
今日はふたりでお出掛けもした。
とても疲れただろう。
おやすみ。
いい夢を。
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