旅先で子供が高熱を出した

日記

パサージュ琴海というホテルのレストランで夕飯をとっていたときのこと。

時間でいうと19時過ぎくらい。

お客さんは私たちと、もう一組の親子三人連れの二組だけ。

私はたいきをだっこして食事をいただいていたのだけれど、どうもたいきの様子がおかしい。

オレンジジュースは飲んだけれど、いつもなら喜んで食べるようなものを食べないし、あんまり暴れもしない。

挙げ句に、疲れた顔で抱きついてきた。

私の肩に顔をのせて、べったりくっついてくる。

暑い。


ん?

いや、これは暑いんじゃない。

熱いんだ。

ベッタリしてるんじゃなくてぐったりしてるんだ。

お腹に感じる鼓動が速い。

あわてて話しかける。

「たいき、大丈夫?」

「…ぁ…」

ありゃ。声もでなくなってる。


あわててボーイさんに体温計をお願いする。

同時に奥さんがスマホを取り出してなにか調べ始めた。

多分、近隣の医療機関のことだろう。

私はとりあえず脈拍が異常なのかを知りたくて「幼児 脈拍」で検索。

目安の数字はわかったので、昔教わった脈の取り方を一生懸命思いだし、手首に指を三本当てる。

なにも感じない。

んーと。

したら、次は鼠径部。

反応なし。

どうも、このとりかたは大人向けらしい。

体温計が来た。

32.0

32.9

34.1

35.0

みるみる数字が上がっていく。

36.5

37.4

38.5

39.4

おい、この辺、もう少し刻んで上がるもんじゃないのか。

40.0

たいきの熱を毎日のように計ってて、初めて見る数字がとうとう出た。

永遠にも感じる数秒が経って、40.1を表示したとき、たいきがむずがりだした。

これ以上は計り続けられない。

でも、これ以上上がる感じはなかった。

とにかく40度以上熱があることはわかった。

奥さんに一言「40度」と伝えると、奥さんはボーイさんを呼んだ。


多分奥さんは近隣の小児科とかを調べてもらってるはずだ。

急いでスマホを片手に席を立つ。

とりあえず#8000。

繋がらない。

付近の救急センターをググるも、いまいちピンとくる情報が出ない。

席に戻ると、隣の席の人と奥さんが何か話している。

病状について話しているようだ。

と、どこかに電話していたボーイさんが電話を代わってくれという。

電話の先はどこかの看護師さん。

状況を手短に伝えると「先生に聞いてくるので少しお待ちください」。

奥さんは相変わらず隣のテーブルの人と何やら話し込んでいる。

しばらくして看護師さんが電話口に戻って来た。

「先生が言うには熱中症か何かだと思うけど、1歳児なら専門の先生に診てもらわないと処置も難しい。自分は外科医なので受け入れられない。」

それから、専門の先生が今いると思われる病院を教えてくれた。

車で1時間のところ。

手短にお礼を言って切る。


席に戻ると、隣の席の方が病院を紹介してくれると言う。

小児科の先生が今いて、行くまで待っていてくれるよう交渉までしてくれている。

しかも、そこなら車で40分くらい。

さっき電話で聞いた病院よりも近い。

何者なのかもわからないけれど、とにかくまだその病院と電話している。

旦那さんの方に「もう、いいからすぐ出られては?」と促されるままに席を立った。

ちゃんとお礼が言いたかったけど仕方ない。

ボーイさんに「後でお礼がしたいのでどなたなのかだけ伺っておいてください」と言い残してホテルを出た。


向かった先は「女の都病院」。

これで「めのとびょういん」と読むらしい。

いつもよりずっと精神的に参ってる。

とにかく事故だけはしないように慎重に運転したが、気は焦る。

やっぱり一回道を間違えた。

なんとか病院にたどり着くと、ロビーには誰もいない。

空いてるらしい。

受付に行くと話を聞いていたらしくすぐに診察室の前に通された。


少し待っていると廊下の向こうから、白衣を着崩した、薄い口ヒゲを生やした細身の中年の男性がゆっくり歩いてきた。

見た目は完全に矢沢永吉。

思わず隣の奥さんに「なんかドラマの人みたいなの、来たよ」とささやきかける。

奥さんも同じことを思っていたらしく、微笑した。

「倍返しの人みたい。」

「いや、それは違うでしょ」

近くまで来て「どうぞ」と病室に入るよう促された。

この先生が担当の先生らしい。


この先生、とにかく優しい。

たいきが泣かないように、怖くないように、丁寧に丁寧に話しかけながら診察してくれる。

「もしもしするよ。おう。そうか。怖かとね。じゃあ背中からもしもしすればよか。」

「…」

「よーし、次は前からたい。ほら、よしよし、なかなくてよかよ。背中も怖くなかったでしょ。」

今まで何人かの小児科の先生に診ていただいて来たけれど、たいきがいやがるからという理由で背中から聴診器をあて始めた先生は初めてで感動。

それでも、お腹を押されたり、口の中を見られたりするうちにたいきは泣き始めた。

今日のうんちの様子、朝の体温、日中の様子や昼御飯の食べ具合。

お父さんがやたらうんちの話しとかするのはすこし珍しかったのかもしれない。

聞きながら私と奥さんの顔をかわるがわる見て、ひとつひとつ確認するようにうなずいてはメモを取る。

一通り診て、診断結果は「夏風邪」。

私たちに対処法を説明した後、たいきの方を見て話し始めた。

「たいきくん、しばらく熱で辛いたい。でももう、これはしかたなか。しばらくしたら楽になるたいね…」

とにかく優しく丁寧。

たいきも泣き止んで神妙に聞いている。

「…お薬もだしとくから、辛かったらお父さんとお母さんにつかってもらいなさい。よかね。」

部屋を出るときたいきに「ありがとう、ばいばい、は?」というと、たいきは「あっと、ばいばい」と先生に手を振った。

先生も笑顔で応えてくれた。


あとで伺うと、最初の隣の席の方はその女の都病院の職員さんだった。

ちょうどあのとき、まだぎりぎり病院に小児科の先生がいることを知っていたので、どうやら、わざわざ診療時間外まで残って待つようにお願いしてくださっていたようだ。

何しろ大きい病院なのにロビーに誰もいなかった。

「あの先生は名医だから紹介したい」という思いもおありだったかもしれない。

そう思うくらい、いい先生だった。


パサージュホテルで体温計探したりあちこち問い合わせしたりしてくださったスタッフの方々。

せっかくのお休みなのになんの関係もない私たちのために食事の手を止めて色々手配してくださった「女の都病院」の方とそのご家族。

わざわざ1人の患者のために病院を開けて待っていてくださった先生や看護師さんやスタッフの方々。

旅先でいきなり未経験の高熱を見て動転してしまったけれど、みなさんのおかげでパニックにならずに最善の行動ができた。

感謝感謝の一日だった。

二日後の朝のたいき。すっかり元気になった

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