虐待をするのはどういう人なのか

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子育てをするにあたって私が一番大事にしていることは、奥さんを信用しない、ということと、自分を信用しない、ということ。残念ながらふたりとも、たいきを虐待する可能性がある。私はこの二人を本当に信用していない。

これには深いわけがある。このことを説明するには1人の人物と、ふたつの心理学の実験を紹介しなければならない。

(私は歴史家でもなければ心理学者でもないので、本稿について記事の学術的な正確性には責任を持ちません。また、誤謬があれば指摘はいつでも受け付け、修正します。)


アドルフ・アイヒマンについて

若き日のアイヒマン

この人は、第二次世界大戦中のナチスの人物。

そんなに偉いわけではなかったけれども、何百万人ものユダヤ人を強制収容所に送る実行部隊の指揮官的な存在で、最も恐れられた人物の一人。アイヒマンがいつまでに何人あそこに送れと言うと、その数だけユダヤ人が命を落とすことになった。

この人はドイツが戦争で負けてから、南米に逃げるのだけど、当然と言うか、戦争が終わってから15年後にイスラエル(ユダヤ人の国)に捕まってしまう。

もちろん名前は隠して暮らしていた。

ある日彼は花束を買って家に帰ろうとした。その日は彼の結婚記念日で、花束は奥さんに送るためのものだった。

こいつが怪しい、と目をつけていたイスラエルの諜報機関はその花束を見て「こいつだ」と最終的に判断したらしい。もちろん彼らはアイヒマンの結婚記念日がその日であることを知っていた。

そして最終的に死刑になる。

ところが、実は話は簡単じゃない。

捕まってから死刑になるまでの間に、アイヒマンを裁くための裁判が行われ、その様子は公開されていた。多くの人が「世界の敵」「人道の破壊者」「悪の権化」「ヒトラーの手先」であるアイヒマンの姿を見た。テレビでも放送されたらしい。映像が残っていて、映画にもなっている。

ところが、アイヒマンは全然極悪人風の人物ではなかった。ユダヤ人がたくさんなくなったことについては「遺憾です」などと言ったものの、「自分は命令に従っただけなんです」なんてサラリーマンのようなことを言う。見た目も雰囲気もまるっきり小役人だったことが物議を醸した。

ちなみにこの人のことを「悪人ではないのではないか」といったユダヤ人の思想家、ハンナアーレントという人を題材にした映画(「ハンナアーレント」)でこの辺りのことは全部描かれている。私は奥さんと2人で見た。


ミルグラム実験(アイヒマン実験)について

アイヒマンを見てどうもおかしいと思った人達がいた。つまり、奥さんに花束を買って帰るような平凡な奴があんな大それたことをしでかすものなのか、ということだ。

どうも、とんでもないことをしでかす奴は生まれつき極悪人なわけではなくて、人間というのは変な環境(アイヒマンの場合はナチスという組織)にいるとおかしなことをしてしまうものなのかもしれない。

アイヒマンが死刑になった直後に行われたこの実験は、実験をやった人の名前をとってミルグラム実験とも、アイヒマン実験とも呼ばれている。

詳しいことはWikipedia(ミルグラム実験)でも見てもらえばいい。有名な実験なので知ってる人も多いと思う。

簡単に言うと、大学の教授が募集した「記憶力に関する実験」のために、先生役になった人たちが、生徒をテストして生徒が間違えたら生徒に電気ショックを与えるボタンを押す。間違えるたびにだんだん電圧を上げていって、生徒役は最初は「いてっ」って言う程度なのだけれど、だんだん絶叫し、のたうち回り、実験をやめてくれと叫び、最後には無反応になる。

ちなみに、先生役が実験を止めようとすると教授が冷静に「続けてください。あなたの協力が必要です。問題ありません。責任は私がとります」みたいなことを言うことになっている。先生役が「やっぱやめよう」と5回言うか、生徒が動かなくなってからも最大電流を3回流したら終了。

本当の目的は、ひとが、どこでこの実験をやめようとするのか、という実験。

ひどいテストだけど、実は生徒役は役者さんで、本当は電気は流れていない。

最後まで電流を流す人はどのくらいいると思いますか?

30%くらい?10%くらい?

この教授が事前に同僚達に聞いたアンケートでは1%くらいだろうと思われてた。

結果は65%の人が、最後まで電流を流し続けた。

生徒が電流に耐えかねて絶叫した時点で実験をやめた人も一人もいなかった。


スタンフォード監獄実験について

なんか書いてて暗くなってきたので、3つめの実験は簡単に済ませることにする。スタンフォード監獄実験(外部リンク 詳しく知りたい人はコチラでどうぞ)と呼ばれる実験。映画(ES)にもなっている。もちろんこれも奥さんと見た。

20人の人を看守と囚人に分けて「リアル牢屋ごっこ」を2週間やったらどうなるか、というだけの内容。変えるのは服装と住む部屋だけ。ミルグラム実験みたいな罰則を与える指示とかは無し。当然、暴力は禁止。

普通に考えて、2週間くらいじゃ何も起こらない、で終了のはずだった。

結果は、あっという間に素手で便所掃除させるとか髪を切るとか箱に詰めるとかいうような虐待が始まり、暴力も平然と行われるようになり、その頃には教授も楽しくなっちゃって止められなくなっていて、外部の牧師さんと弁護士さんの力でようやく実験は中止。

たったの6日で。


どれもこれも絶望的な話ばかり。

とはいえアイヒマンはドイツ人、2つのの実験をやったのはアメリカ人。

あるいは全部キリスト教徒の話。

日本人は、我々違う。

と、思いますか。

自分だけは違う、奥さんだけは違う、夫だけは違う。

そう言い切れますか。

私は残念ながら言い切れない。

人間ってこんなものなのか、と思う。


だから私は奥さんのことも信用しないし、自分のこともいつも疑ってる。

子供と二人きりで1日、2日、3日。

自分は親で子供より偉い。子供はなんの抵抗もできない。しつけ、という大義名分だってあるし、産んで育てているという大義名分だってある。

そして、子供は言うことを聞かない。

置かれてる環境は、上の実験と何にも変わらない。1週間も経てば、モラハラやDV、虐待みたいなことが始まっても何にも不思議じゃないのが、人間という生き物の、心の仕組みなのだ。

多分毒親と呼ばれる人も、虐待を繰り返す親たちも、自分は大して悪い人間だとは思っていないのだ。でも私がはっきりとこれだけは言えるのは、彼らは自分が子供より偉いと思っている。残念だけど私も心のどこかで思っている。

だから、わたしは奥さんがワンオペになることを恐れるし、わたしがワンオペになることも恐れている。大切なたいきを一番傷つける可能性があるのは他ならぬ私たち夫婦なのだ。わたしの大切な大切なたいきを私たちから守るために、何をしなければならないのか。

私はいつもそのことを考えている。


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