寝かしつけで聞かせる曲 ~ベートーベン 3大ピアノソナタ
ここのところ、寝かしつけで一番よく聞かせているのは、実はレコードじゃなくてCD。
ベートーベン作曲
ピアノソナタNo.14 ”月光”
ピアノソナタNo.8 ”悲愴”
ピアノソナタNo.23 ”熱情”
ピアニストはルドルフ=ゼルキン。
クラシックファンであれば、まあ、まず知らない人はいないという20世紀を代表するピアニストのひとり。もちろん、卓越した技術を持っているには違いないのだけれど、演奏の速さや華麗さを競うようなピアニストではなくて、とても音楽に誠実に忠実にピアノを弾く。ある種、武骨にも感じるような、哲学的にも思えるような演奏。
ベートーベンは、ゼルキンというピアニストが現れてたくさんの録音を残してくれて幸せだと思うし、ゼルキンも、ベートーベンという作曲家がいて、ゼルキン自身の精神性を余すところなく表現することのできる楽譜を残してくれて、幸せだろうなぁと思う。
といって、別に、聞くのが難しいわけじゃない。普通に聞いたら、「綺麗だなぁ」とみんな思うんじゃないか。語弊を恐れず言えば、一流のミュージシャンというのはつまり、音楽を、みんなが違和感なく聞き流せるように演奏するし、そうして演奏された音楽が、真剣に聞けば感動できるようになっている、そういう人のことを言う。どうだ、これが芸術だ、わからないやつはわからなくていいんだ。そういう芸術は、残念ながら本当の意味での芸術ではない。
つまり、簡単に言うと、あかちゃんが聞いていて笑顔になったり、そのまま寝てしまったりするのが一流の音楽。
ゼルキンのピアノには、クラシックファンを感動させ続けてやまない深みがあるとともに、赤ん坊が聞きながら寝てしまう安心感が共存している。
さて、月光というと、クラシックファンにはおなじみの曲で、第一楽章、第二楽章、第三楽章の3曲から構成されている。第一楽章は、クラシックファンじゃなくても一度ぐらいはどこかで聞いたことがあるような気がする曲。とても静かで、夜の湖に船を浮かべて、月の光に一人照らされながら物思いにふけっているような風情。約6分。
第二楽章は、軽やかなテンポで、若い恋人同士が月の明かりの下で踊っているような、あるいはホームパーティーで皆が穏やかに談笑しているような光景。約2分と短い。
第三楽章は、打って変わってものすごい早いスピード。激流に流され、翻弄され、もがき、怒り、悲しみ、そしてそんな感情のすべてをその激流が押し流していってしまうような曲想。これだけ楽譜を書くのも大変だっただろうなぁと思うぐらい、短い時間にものすごくたくさんの音が流れていく。時間は約7分間。
もちろん、最初は、物静かで美しい第一楽章を聞いてるうちにたいきくんが寝ちゃうんじゃないかと思って聞かせていたのだけれど。実は、たいきくんは第一楽章では寝ない。むしろ第一楽章を聞いているときは、曲がたいくつなのか、若干不機嫌。第二楽章になると、だっこしてるこちらも少々軽快に体を動かし始めるので、ごきげんになる。
そして、問題の第三楽章。激流のように音が流れ始めるとものの30秒もたたないうちにまぶたが落ちてきて、1分もするとしっかり寝てしまう。もちろんそのあとすぐにベッドに寝かせたりすると起きてしまうこともあるのだけど。
悲愴や熱情にしても、静かな楽章では寝ないのに、テンポの速いところに来ると、すとんと寝てしまう。
なんでなんだろう。理由はともかく、いまのところ、ここ最近は、毎晩、このCDでたいきくんが寝てくれるパターンがつかめたので、少し楽になった。そのうち飽きたりするんだろうか。しばらくはこのCDで続けてみよう。
ちなみに、以前紹介したソニーの全集にも同じゼルキンが別の時に録音したと思われる音源のレコードが入っていた。そちらでも、よく寝る。
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