出産立会いの日(夫の体験談)⑤

出産立会い

助産師さんは、時々いなくなる。最初にいなくなったのは8時から10分もたたないころ。

「スグトビダスワケジャナイデスカラネ~」

といって出ていったきり、5分くらい帰ってこない。お義母さんは特段気にせず、妊婦は、そもそもそれどころではないようす。いつ飛び出して来るかと思い、うっかり飛び出して来ちゃったときのシミュレーションを頭のなかで繰り返すが、たしかに、ほんとに飛び出してこない。こんな心配をしているのはわたしだけらしい。

あ、シミュレーションっていうのは、あれですね。ライオンキングの、マンドリルだかマントヒヒだかが、シンバ?を高々と掲げて祝福して、光がさしてくるやつ。え~~じゃわんや~~~、じりりんびわわ~~~、みたいなやつ。実はライオンキング、途中までしか見てない。だから、CMとかで流れてるこのシーンしか思い浮かばない。もちろん、わたしがマンドリルの仕事をする想定。頭の中で必死で歌う。え~~~じゃわんや~~~。

助産師さんがもどってくると股座をのぞきこみ、頭は見えてるよ~、という。おお、刑法上はこの時点で人だ!と思う。刑法と民法の狭間で戦っている1.5人を応援する。妊婦も痛いが、胎児はもっと痛いらしいとどこかで聞いた。がんばれ。

9時頃、知らないおっさんが入ってきた。この人だけ白衣。この時点で、それまでいたお姉さんたちが全員助産師さんだったということは、私はまだ知らない。このおっさんが院長先生だと知ったのも、翌日のこと。とうとう「はい、ちょっとジガットするよ~」というおっさんの宣告。ハサミの音。妊婦は叫ぶわけでもなく、むしろ恍惚の表情。切られても痛くないとは聞いていたけどほんとに気づかないのか。心から安堵。

9時過ぎ、ずるずると引き出されるように、誕生。同時に民法上も人になった安心からか、彼が放便。立派な黒々とした金たまの上に、小さなチンチンがついていた。

否応なく、この時点でこっちは父親ということになるらしい。やれやれ、まだ何にもできない。これから、父親ってどういうものなのか、学びながら父親になっていかなければいけない。まったく半人前以下の、父親が誕生した瞬間でもある。

生まれ出た子供を見て放心する私を尻目に、生まれてきた彼は、2,3秒後に泣き出した。元気な声で。

おお、なんか、外に出てきてびっくりしてるんだろうか。痛かったんだろうか。それにしても、出てきていきなり大声で泣き出すなんて、わが子ながら大したもんだ。そんなことを考えながら、へその緒が付いたまま奥さんの両腿の間に座らされている、どう見ても、そう、どこからどうやって見ても、むかーしむかしの弟にそっくりな赤ん坊、つまり有る人が言っていた言葉を借りれば、いいわけ無用で自分そっっくりな、まだ名前もない赤ん坊を眺めるうちに、ああ、そうか、これが産声というやつか、と思いいたった。

助産師さんが、体重を量る台にその子を置き、体重をなんだか紙に書き込む。そして、抱っこしますか?と聞かれた。全力でうなずく。奥さんごめん。先に抱っこしちゃう。

ちっちゃいちっちゃい、産着にくるまれた赤ん坊が腕の中で、かわいいかわいい泣き声を上げた。

おしまい

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