出産立ち会いの日(夫の体験談)③
夕暮れ。
まだ子宮口が5センチくらいしか開いてないから、逆に、いま子供が出て来そうになると困るらしい。
とはいえ、陣痛が来ると妊婦はいきむ。
ということで、奥さんがいきんじゃったときに、うっかり子供が出てきてしまわないように、陣痛が来るたびにおしりの穴の辺りを押し込む、という大役を仰せ付かる。
結構重労働。
出産立ち会いって、妊婦のとなりでがんばれとかいいながらそれっぽい顔で立ってることかと思っていた。
全然聞いてたのと違う。
誰に文句を言おう、とか考えながら、
「ああー!おしてー!」
と言われるたびに、渾身の力で妊婦のおしりを押し込む。
2分おき。
インドア派の体には、きつい。
時計を見ながら、7時にまた検診が来るから、そこでまた状況が変わるはず、というのを心の頼りに、押し込む。
特に、そこで状況が変わるという根拠はない。
かーちゃんのためなら、えんやこらぁ、という歌を思い出す。
肩もうでも痛いが、妊婦はもっといたそう。
とても、たばこすいたいとかいえない。
不思議とおなかは減らない。
お義母さんが背中をさすってやってる音を聞きながら、ひたすら、おしりを押し込む。
7時、状況変わらず。
ヤクルトレディのななこさんに教わっていたとおり、聴いていた通りではあるものの、なぜか部屋にテニスボールが。
これ、どこの産科でも同じようにおいてあるんだろうか。
これでおしりを押すと押しやすいらしい。
とにかく、何か少しでも楽になることだったら何でもしたい。
意を決して使ってみたが、これではおしりがふくらんでくるのが手に伝わらず、押し込むタイミングがわからない。
困った。
妊婦はすでに「はい、おしてー」とか言える感じでもない。
確かにテニスボールの方が楽に押せる感じだったが、テニスボールごしにタイミングを感じ取れるようになるまでには、まだ最短でも5分位はかかりそう。
しかも、押す場所もテニスボールごしにでは、ずれていきそう。
いちいちそのたびに妊婦に負担をかけられない。
と、瞬間的に判断し、テニスボールをすてて、おしりを押し込む。
とにかく、1時間おきの検診で状況が変わるまではこれを続けるらしい。
いま、実は生まれるタイミングだったらどうするんだろう、とか思う。
意外と、看護師さんやら先生やらがずっとついてるわけじゃないんだなぁ。
思ってたとは色々違うなどと考えつつも、まあ、毎日何人も生まれてる病院。
信じて任せるしかない。
とにかく、四の五の言わず、おしりを押し込む。
時々時計を見る。
時計を見ても、終わりが決まってないから「後何分」とかわかるわけじゃないんだけど。
意外と、時間がたつのは早い。
もうこんな時間か、などと、時計を見るたびに思いながら、おしりを押し込むのだった。
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